OTA BOOK ARTS, Miyota Studio

OTAブックアート・御代田スタジオ

アトリエ+ギャラリー 長野県北佐久郡御代田町

OTA BOOK ARTS, Miyota Studio

空へ延びる「大きな棚」のあるブックアーティストのアトリエ

「本」をテーマに様々な表現を探求しているブックアーティストのためのギャラリー付アトリエである。

アーティストとデザイナーであるクライアント夫婦は、自然に寄添った生活と自由で落ち着いた創作の環境を求め、都市から離れた地域への移住を決意、御代田町の緑豊かな角地と出会った。

生活と創作の適度な距離感が重要との要望から、アトリエと住宅は分棟として敷地内に計画した。地域と連続したオープンな北側の前庭に向けてアトリエと住宅を配置すると、南側には家族のための落ち着いた奥庭ができた。緩やかな敷地勾配に馴染むよう2棟のレベルを設定し、全体として林のなかにあらわれる集落のような状況の創出をめざした。

アトリエ棟は北東の道にギャラリーを面して配置した。1階は作品制作のためのアトリエと、展示のためのギャラリー、木工作業室、倉庫からなる。アトリエとギャラリーは吹抜け空間として天井高5mを確保した。2階は落ち着いたミーティングスペースと、ライブラリー兼オフィスである。建築の中央に1階の床から2階天井ロフトまでを貫き垂直に延びる「大きな棚」を配置した。これは1階のアトリエにおいてはブックアートの制作に必要な紙や布、糸をはじめとしたさまざまな素材や印刷や製本にまつわる道具を集約して収納する効率的な棚であり、2階においては参考資料を収め、完成した作品を保管する棚となる。あたかも棚の一部であるかのような3階のロフトは梯子でのぼり、浅間山の風景と対峙し静かに本を読む独りのスペースとして構想した。このロフトからは安定した天空光がアトリエ全体に柔らかく降り注ぐ。ブックアートの制作を支える機能的なインフラストラクチャーを象徴的な物語と時間を感じさせる存在に昇華できないかを考え、唯一の建築的表現とした。

アーティストは、ウィリアム・モリスの言葉「「最も重要な『芸術』を問われたなら『美しい家』と答えよう、その次に重要なのは『美しい書物』と答えよう。」をひいて、本と建築の相似性について言及していた。またその作品は私見だが大変に「建築的」なものであった。設計過程におけるクライアントとの対話自体が刺激に満ちた時間であり続けたが故に、設計において直接的な影響を受け過ぎないよう努めた。アトリエの空間はあくまでアーティストの創作を支える場であり、突出した建築表現は抑えるべきと考えたからだ。この場からどんな作品が生み出されていくのかが楽しみである。

DATA

設計
アイダアトリエ
 担当 会田友朗 中村裕
構造
坂田涼太郎構造設計事務所
施工
新津組
用途
アトリエ(工房)
敷地面積
1,104.49m2
建築面積
77.42m2
延床面積
100.83m2
構造規模
木造在来工法・地上2階建
省エネ基準
HEAT20 G2 0.28クリア
Ua値
0.19
C値
0.4(22/05/20測定)
写真
野秋達也
OTA BOOK ARTS, Miyota Studio
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